『タテの国』は集英社の『ジャンプ+』で連載されていた縦読み専用漫画です。
作者は田中空。元は漫画の原作・ネームを主として活動されていた方です。おかげで画風についてはかなりつたなさを感じさせる画風となっております。
舞台は『タテの国』。無限に続く縦方向の国『タテの国』から始まる物語は縦読みの特徴を上手くとらえた非常に良い作品です。
Vtuberの『社築(やしきず)』さんも大絶賛の非常に良い漫画なのですが、いかんせんマイナー。先に述べたように絵の拙さも人気の足を引っ張ります。しかも、タテ方向にスクロールし続ける特性上、単行本化も望めないというハンディキャップを負っています。
そんな隠れた名作をご紹介したいと思います。
あらすじ
どこまでも続く塔の『タテの国』。その国では有毒なガスが満ちていた。
いつかタテの国の底に行きたいと秘めたる思いを抱いた少年ルスカは、ある日、突如落ちてきた少女を追いかけて、自らも落下する。
ルスカは落下の途中で元人間のロボット『ケルビン』と出会い、彼の助力を得て、少女を助け出すことに成功する。
その少女の名は『オメガ』。彼女は飢饉を静める為、生贄に捧げられたと語る。
しかし、塔は突如、大きく動き出し、オメガは連れ去られてしまう。連れ去られたオメガと再会する為、ルスカは仲間と力を合わせ、時に戦いながら時空を超えた大冒険を進め、やがてタテの国の真実へと迫っていく・・・
導入はいたって素直なボーイミーツガールの物語です。
内容は紆余曲折あり、少し複雑なところもあるのですが、導入の部分は非常にすっきりとよくある展開であると言えるでしょう。
タイムスリップやワームホールと言った題材を取り扱う、王道SFです。ジャンプの中では比較的珍しいSF作品と言えるでしょう。(あくまで私見ですが)
ラピュタやナウシカと言った作品に影響を受けていると公表されています。実際、空から少女が落ちてくると言えばラピュタを思い浮かべる人も多いでしょうし、有毒なガスの対策としてマスクを着けているというのも、ナウシカから来ている設定と言っていいでしょう。
個性的なキャラクター
「個性的なキャラクター」なんて手垢の着いた表現ですし、どんな作品でも言われることだとは思います。
ただ、この作品のキャラクターの個性は極々些細なところで光る様に発揮されます。あまりわざとらしい強調のされ方はせず、自然な形で発揮されます。
主人公ルスカは主人公らしく恐れしらずに突っ込んで行くタイプです。先々で出会う人々は時にそれを苦言を呈しつつ、巻き込まれ、やがてルスカの前向きな姿勢に影響されて行きます。
なので、ルスカに同行して新しい人物と出会った時、新しい人物が「お前ら無茶苦茶だよ!」というようなことを言う時にも、同行者たちはすでにそういうもんだと受け入れ始めています。
特徴や個性が言語化されていないのに、行動や思考に一貫性があるため、そのキャラクターの個性というものがきちんと把握できる演出になっているのです。
SFというジャンプの中では比較的特殊なジャンルのマンガではありますが、友情・努力・勝利のジャンプ三原則はしっかりと踏襲されています。
特に、友情は
・敵にも譲れない敵なりの事情がある
・戦いのあとには、主人公に思いを託す
・思いを託された主人公はより思いを強くして前へ進む
といった流れが美しく、その部分だけでも十分にお勧めできる作品です。
巻き込まれながらも結局最後までついて来てくれる仲間や、行きずりの仲間の為に命懸けで踏ん張る主人公『ルスカ』の様子はいつ見てもかっこいいなぁと感じます。
衝撃の連続
この漫画は、読み進めていくと唖然とする瞬間が多々あります。
まさかの再登場、まさかの展開が巻き起こり、幾度となく衝撃を受けました。
特に80話以降は連続して衝撃の事実が発覚し、毎話毎話衝撃を受け続けていました。
ルスカ達は時空を超え、様々な場所へ赴きます。時空を超えた大冒険だからこその要素として、思わぬ所・時で思わぬ人物と再会します。
むしろ、時空を超えた先で、思わぬ所・時に移動してしまうことが多々あったと言った方が正しいかも知れません。そして、その行く先々が、その思わぬ人物の存在する場所だったということで、まさかの遭遇を果たすことになります。
おかげで、読み進めていくと意外な人物が再登場しやすく、コメント欄で「生きとんたっかワレェ!」という喜びの声が良く聞こえます。
そういった衝撃を毎話毎話繰り返してくれるようになるので、読んでいて「ダレ」や「たるみ」を感じさせない作品に仕上がっています。
投げ捨てられてしまった設定は多い
投げ捨てられてしまう(ように感じられる)設定が多いことは非常に残念でした。
複雑に絡み合うループと時空間移動があるために、歴史の空白や分岐した世界、それぞれをまとめ上げるだけでも、非常に難解な作業になってしまうためでしょう。
とりわけ、先の「衝撃の連続」の項でも述べたような「意外な人物の再登場」があったために、キャラクターや設定が作者の中で丁寧に扱われているように感じるシーンは多数でした。
それが翻って、読み切ったあとでは「あの要素は?」「この要素は?」と思うような要素もいくつもありました。
最終的には気持ちのいいハッピーエンドのようにはなってはいるのですが、そこに至る最終的な過程がほぼすっ飛ばされており、その点だけが残念でなりませんでした。
派手なアクションシーンや主人公の超能力で乗り切ってくるのではなく、地道に積み上げてきた物語であるだけに、最終的な過程がかなりすっ飛ばされてしまったのは、ちょっと残念ではありました。
これも一つの『ファイナルファンタジー現象』なのかもしれないと思いました。
終わりに
タテ読み漫画の中でも、その特徴を上手くとらえ、世界観に落とし込んだ『タテの国』。ここ最近では珍しいハードSF寄りの作品であり、今後もしばらくこういった作品は登場しないと思われます。
なお、全話無料で読めますので、お時間あるときにどうぞ。