※さまざまな作品の根幹にかかわるネタバレが含まれています。作品全般にネタバレが嫌いな方はご注意ください
集合精神とはWikipediaによると
複数の個体がひとつの意識を共有している状態
です。つまり、脳の集合体によって判断を下す機構と化しているような状態になります。
集合精神が主に登場するのはSFの世界です。たとえば、人間の脳を電気的に接続、より高次な判断を行おうとする機関などが登場します。
集合精神が登場する作品というのは実はそれなりにあります。ただ、集合精神が登場するのは物語の終盤、ラスボスであることも多いです。
そのため、こういったくくり方をしていることが少ない、そもそも集合精神という言葉を知らないという方も多いのではないでしょうか。
世界観やキャラクターといった「入口」の部分から作品をまとめたレビューは数多くあります。逆に「落ち」の側でまとめてみたレビューをしてみるとどうなるのか、という実験も込めてまとめてみました。
集合精神の登場するアニメ
集合精神の登場するアニメをここから紹介していきます。今回は独断と偏見で、比較的最近の物を抽出させていただきました。
「これもあるぞ!」というご意見もあるでしょう。そう言った方は、コメント等で活発に議論していただければと思います。
魔法少女まどか☆マギカ:キュゥべえ
『キュゥべえ』といえば「僕と契約して魔法少女になってよ!」の名言でしょう。可愛いマスコット的外見を裏切る様に、冷徹な性格から、多くの人に嫌われています。
『キュゥべえ』は少女の願いをかなえる代価として、その後、魔女を狩る魔法少女となる契約を結ぶよう(場合によっては強引に)勧誘してくる存在です。
この魔女という存在、実は、魔法少女の慣れの果ての姿です。魔法少女が絶望すると、魔女になります。『キュゥべえ』はこのときの、絶望による感情エネルギーを抽出して、そのエネルギーをもってして宇宙の維持を目論んでいます。
ただし、この『キュゥべえ』はあくまで集合精神の端末です。『キュゥべえ』を破壊すると、別の新規の『キュゥべえ』が来ます。
この『キュゥべえ』の本体は精神集合体であり、目的は先述した通り「宇宙を存続させること」です。そのために、魔法少女たちを絶望に陥れようとしています。
小を捨て、大を救う集合精神の権化のような存在です。
PSYCHO-PASS:シビュラシステム
『PSYCHO-PASS』は近未来刑事ドラマ(アニメ)です。作中で、日本のほぼすべてを取り仕切っていると言っていいのが、このシビュラシステムです。
シビュラシステムはスキャナを通して、人間の犯罪行為や精神状態を観測します。そして、「犯罪係数」という数値で表現します。
この数値が高くなればなるほど、処分が重くなります。そのため、この世界の人々は、普段からメンタルケアを怠らないようにしています。逆に、少しでもメンタルが悪くなって「犯罪係数」が上昇すると、それだけで一気にメンタルを病んでしまう場合もあります。
具体的な方法については言及されていませんが、シビュラは進路・就職にも口出しをしているようです。作中の人物の就職先などはシビュラが適性を踏まえて示した選択肢の中から選ばれていると考えられます。
この犯罪係数はシビュラシステムの考える「秩序」からはみ出している場合にも、上昇してしまうようです。同性愛、異常性愛、偏執狂などが保護観察対象として収監されてしまいます。そのほかにも、シビュラシステムに疑問を抱く者、生まれついての性質といった理由から収監されたり、処分されてしまうこともあり、決してシビュラによって管理された世界が全てにおいて幸福な社会ではないことが描かれています。
このシビュラシステムの正体は、シビュラの規範を超越した天才たちの脳を接続した集合精神です。脳みそが液体の入ったガラスケースの中に入れられている様は、SFっぽくもあり、また、ちょっと不気味で異質さを感じさせるものでした。
なお、シビュラの脳の元となった人格は消滅していいません。そのため、シビュラに組み込まれた脳の保有者であった人物が、端末を通して、旧知の友人にしゃべりかける描写もありました。(音声は端末の音声そのままでしたが)
シビュラに組み込まれた人格の何人かは名前が明らかになっていますが、全員分は不明です。
シビュラはシビュラの想定を超えるような「天才」を勧誘しては、システムを強化しています。ただ、勧誘を行う以前の最初の脳は誰の脳なのか、その脳の能力はどの程度のものだったのか、少し気になりますね。
シビュラに組み込まれた者たちは「神に等しい力を得たようだ」と発言したりしていますが、この思考は「第一号」のやや傲慢な性格が反映されているのかな、と勝手に想像しています。
グレンラガン:アンチスパイラル
アンチスパイラルは、グレンラガンのラスボスであり、全宇宙を監視している組織です。
進化の力である「螺旋力」が宇宙の寿命を縮めてしまうという事実から、螺旋の力を持つ種族を監視し、一定数に達すると、殲滅する集合精神です。
アンチスパイラル自身も元は螺旋の力を持つ種族でした。しかし、螺旋の力と宇宙の寿命の関係に気付くと、自らを星ごと封印し、集合精神となり、螺旋の力を監視する機関となりました。
螺旋の力を持っている種族でも、細々と暮らしている分には宇宙への影響が少ないからか、手を出しては来ません。
相当に長い間、宇宙の螺旋の力を監視し続けてきたようで、幾度となく進化し、現れてきた螺旋の力を持つ者たちと対決して来たようです。
その間、ぶれることなく「宇宙を守る」ことを使命に掲げてきたのですが、結果的には主人公一団に敗れます。
宇宙存続のために集合精神となった点は『キュゥべえ』と、自らが宇宙の守護者であるという驕りは『シビュラシステム』と、共通していると言えるかもしれません。
ただ、手段は直接的であり、執行猶予(一定数に達しない場合は手を出さない)、やる時には一気に息の根を止めるというあたりは、上記2つに比べるとやや慈悲を感じます。
集合精神は敵なのか
こうやって3つほど並べてみると、集合精神は(必要悪である場合も含めて)敵対勢力であるような描写が多いです。
この理由はやはり、集合精神が異質であり、常識的・本能的に拒否感を示しやすい存在であるからと考えられます。
まず、常識という点で言えば、現代社会の理念が個人を尊重するからです。基本的人権の尊重はそれを体現しています。
「他人を大切にしろ」「一人一人が大切なんだ」と教え込まれている我々は、個人という存在を尊重する常識を持っています。(特定の個人を尊重していない人でも、「個人」という概念を尊重しているはずです)
とはいえ、「個の尊重」が理念であると刷り込まれている我々にとって、個を完全に捨てきった集合精神というのは、異質な存在です。
さらに、集合精神は優秀な精神を結合して、立ちはだかってきます。バカな精神ばかり集めて結合させた集合精神というのは聞いたことがありません。(そもそも集合存在は実在しないという点は置いておきます)
また、本能的な観点で言えば、多様性を失っているからとを考えられます。
生物の進化・生存において、多様性は正義です。なんらかの要因で環境が激変した際に、多様性があれば、激変した先でも生き残られるかもしれないからです。
にもかかわらず、集合精神になると、せっかく頑張って増やした多様性を収束させ、1つの存在になってしまいます。それが、生物的に拒否しやすい敵と認識させやすい存在なのではないかと考えられます。
ただ、集合精神はあくまで精神というソフトウェアの話です。そして、生物における多様性というのは、遺伝子的な話、肉体的・ハードウェア的な話です。
なので、ハードウェアを均一化してしまうことに対して本能的に拒否感を抱きやすいというのはわかりますが、ソフトウェアを均一化してしまうことに対しても、拒否感を抱きやすいかもしれないというのは、面白いと感じました。(あくまで想像上の話にはなりますが)
ソフトウェア(思考)が行動に影響を与え、行動が肉体を変化させると考えることはできます。なので、完全に同一な精神を別々の肉体に植え付けると、やがて肉体は1つの模範解答へ収束していくのかもしれません。
それを恐れているのだとしたら、人間はハードとソフトの関係性を把握していることになります。もし本当だとしたら、それは別の意味で凄い事のように感じました。
終わりに
集合精神を取り扱ったアニメ3つに加え、集合精神がなんで敵になりやすいのかについても、考えてみました。
とはいえ、実際にこのほかにもたくさんの集合精神を取り上げたアニメがあります。(具体的な名前は伏せますがサンライズのアニメに多いです)
その中では、敵ではなく人類の生存のための救いの力としての集合精神が登場するアニメもあります。
少しでもこれらにアニメに興味を持っていただき、そのまま、はまっていただければ、ラッキーと思っています。そして、より深い観点で、物事を捉え、より深くアニメを楽しんでいただければうれしいです。