ドムストの雑記帳

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ジャンプラ史上最も邪悪な漫画【タコピーの原罪】

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『タコピーの原罪』は『ハッピー星』から来た宇宙人『タコピー』が、いじめられている女の子『しずかちゃん』にハッピーになってもらおうとする漫画です。

 

しかし、『タコピー』は善意はあるものの、未熟な救いによって、事態を改善するどころか、時によっては、事態をより悪化させてしまうことすらあります。

 

苛烈な境遇にもたらされた未熟な救いによる心抉られる物語は、時に邪悪さすら感じさせる物語です。

※本記事は3話までの情報で執筆されています。

 

 

shonenjumpplus.com

 

『タコピーの原罪』について

 

まずは簡単に『タコピーの原罪』についての情報をまとめます。

 

連載開始は2021年12月10日。その後、毎週投稿を続けております。

 

作者は『タイザン5』さん。『タコピーの原罪』以前にも精力的に漫画を公表しており、ジャンプ+では、『ヒーローコンプレックス』と言う読み切りを掲載しております。

 

ヒーローコンプレックス - タイザン5 | 少年ジャンプ+

 

なお、こちらの作品では、納得感のあるハッピーエンドとなっています。

他にも、いくつか、ハッピーエンドの作品を公開されているので、タイザン5さんは常に陰鬱な雰囲気の作品を作られているわけではありません。

だからと言って、『タコピーの原罪』のハッピーエンドが確約されるわけではありませんが

 

物語としては『ハッピー星』から、人々をハッピーにするため旅立った『タコピー』が地球人・『しずかちゃん』と出会い、彼女をハッピーにしようとする物語です。

 

しかし、『しずかちゃん』の境遇は明らかに『タコピー』の理解を超えた範疇のものでした。

しずかちゃんをいじめている筆頭はまりなちゃんという女の子ですが、その手口も、彼女の学校生活をとにかく破壊していくものです。そのまりなちゃんは、しずかちゃんの母親に父親を奪われている(要は不倫)ことに端を発していじめを始めています。

 

一方で、しずかちゃんの家庭環境も悲惨な物で、しずかちゃんが常に伸びきったシャツ1枚で暮らしているところから、かなりの貧困家庭であることがうかがえます。

そんなしずかちゃんが唯一笑顔を見せるのは、飼い犬の『チャッピー』。しかし、そのチャッピーも、まりなちゃんや家庭環境に端を発して、「お父さんのところ」に連れていかれてしまいます。

現時点では、この「お父さんのところ」が実際のには何なのかは不明ですが、おそらくは保健所に連れていかれる、あるいは命を絶たれてしまっている可能性が濃厚です。

 

そんな環境の中、タコピーは自分の持つ道具を以って、しずかちゃんをハッピーにしようと奮闘します。そして、自らの道具を使って、タイムリープまで起こしながら、ハッピーに邁進していきます。

 

あまりにも未熟なタコピー

タコピーはハッピーになるための道具をいくつも持っていますが、基本的に効果は中途半端です。詰めが甘く、傍から見れば「いや、そんなんじゃ無理っしょ」と思うほどの代物です。

その割に、タイムリープを起こせる機械があったりと、非常にアンバランスです。

 

 

さらに、タコピーはしずかちゃんとまりなちゃんを「仲直り」させようとしています。しかし、タコピーは二人の親を巡る確執など、微塵も理解せず、ただ、当事者二人が何とかなれば仲直りできる、と考えています。ここでも、タコピーの異常性と言うか、地球人類から見て恐ろしいほどの思考の飛躍があります。

人類からすれば、関係がこじれてしまっている以上は、仲直りは選択肢に入れず、とにかくしずかちゃんを守る・まりなちゃんのいじめを妨害する、というように行動をとります。しかし、タコピーはそう言ったステップを度外視し、ベストな状態であるハッピーを目指すあまり、実現可能でベターな選択肢を撮れません。

 

 

それでいて、タコピーの精神は未熟であり、自身がしずかちゃんの代わりにまりなちゃんの元へ赴いた結果、暴力を振るわれ、恐怖を刻み込まれてしまいます。そのせいで、肝心なタイミングでまりなちゃんへ干渉することをためらってしまいます。まりなちゃんの陰湿ないじめとして「ものを隠す」に対抗して、隠されたものを復元したりしてはいるものの、自分が固執していた仲直りに対するアクションを簡単に放棄してしまっています。

 

未熟さゆえの邪悪さ

 

未熟であることが邪悪であるということを突きつけられるのは、私にとっても苦しい物です。完璧な人間などおらず、どこかしらに未熟さがあります。そして、その上でさらに、他人の環境や気持ちを全て理解することも、その上で適切な行動を選択することは極めて難しい物です。だから、差し伸べられる救いの手は往々にして不完全です。

ただ、その不完全さを不快に感じる人もいます。中途半端で役に立たない救いを与えて自己満足で悦に入っている奴らが許せない、という人もいます。

 

私としては、不完全な救いでも、それが積みあがって、その人の助けになっていてほしいと思っています。ただ、本当に追い詰められた人にとっては、そんな幻想では何の救いにもなりません。

 

タコピーはそんな未熟な救済の権化ともいえる存在です。能天気で、状況を理解できず、自分の見えている部分・自分の思考できる部分だけで出せる解を実行に移してしまいます。その結果、しずかちゃんはタコピーを責めたりはしませんが、かえって絶望してしまうこともあります。

力ない「脳内お花畑」が、絶望的な状況の人に接した化学反応の結果は、悲惨な結末となります。

 

人によっては、あまりにも能天気なタコピーにいら立ちを感じる人もいると思います。それも仕方のない事だと思います。一方で、自分の常識で他人を救えるという思い込みは誰もが持っています。

「ここまでしてやったんだから、後はできるはずだ。なんでできないんだ」というような話は幾度となくSNS上でも話題になります。

 

勿論、現実世界ではすべてがタコピーほど的外れな救いの手であることはないです。それでも、タコピーの的外れさがフィクションであったとしても、未熟さのもたらす害悪・未熟さ自体の邪悪さを感じさせるのです。

 

それは、タコピーの邪悪さではなく、無力さと言うものの邪悪さです。そして、誰しも抱えている側面でありながら邪悪に感じてしまうという悲しきジレンマを体現しているのが、タコピーだということです。

 

終わりに

 

未熟さがもたらす邪悪さ。それを体現しているのがこの漫画であり、タコピーの存在です。毎話、最新話が更新される度、心抉られる物語でありながらも、そこから目を離すことができない魅力もあります。

 

 

一貫して救いのないこの話に、安易なハッピーエンドが来てしまえば、それはきっと興ざめしてしまうでしょう。

それでも、すれ違うタコピーの善意がいつか報われて、しずかちゃんとまりなちゃんが仲直りするという幻想を夢見ずにはいられない、ベストな解を求める邪悪な心が、私の中で芽生えているのもまた一つ事実なのです。