『アニメ 86 エイティシックス 第3話 死にたくない』の感想です。
毎日定時に通信を行い、スピアヘッド隊との親交を深めようとするイレーナ。
適当にあしらいつつも、話を続けるスピアヘッド隊。
現実に対する決定的な認識の違いが、あまりにも直球な表現で提示されることになりました。
あらすじ
『スピアヘッド』隊のメンバーは非戦闘時間を狩りをしたり、洗濯の合間を水浴びや恋愛相談、覗きや説教に費やしていた。
イレーナは戦線の地図を倉庫から発掘し、スピアヘッド隊のメンバーたちの役に立てると喜んでいた。そして、毎日のスピアヘッド隊のメンバーたちへのパラレード通信ではスピアヘッド隊のメンバーたちも話に乗ってくれるようになり、時に笑いを交えながら歓談のひと時を過ごすのだった。
スピアヘッド隊のメンバーの中には、イレーナが通信を接続してくることを快く思わず、隊長・シンの力でイレーナも破壊されてしまえばいいと思う者もいた。しかし、そう思っている人物でさえ、直接シンにそのことを伝えることはできないというのが本音だった。
その中で、イレーナはなぜ86達と普通に接するのかと言う問いが出る。
イレーナはかつて『86』の一人に助けられた過去があった。イレーナを助けた人物は「戦うことは共和国軍人として当然のことだ」と語る高潔な人物であり、イレーナはそう言える『86』に報いたいと思っているのだと語った。
スピアヘッド隊のメンバーからはイレーナが穢れを知らぬ無垢な人物だという言葉も出たが、
あくる日。イレーナはスピアヘッド隊の指揮を執っていた。手元には手に入れた戦線の地図を置き、その地図を活用しながら、地形戦の指示を出す。その指示に対してスピアヘッド隊も理解を示し、的確な指示が出せたと安心するイレーナ。
しかし、スピアヘッド隊からついに一人戦死者が出てしまう。イレーナが「残念だ」というと、スピアヘッド隊のメンバーからの不満が噴出する。
今までの歓談はすべてお付き合いであり、戦死者が出た状況でまで付き合う義理はないと言われてしまう。さらに、イレーナは偽善者と罵られ、どれほど善人ぶろうと結局は前線で『86』を使役する側に甘んじて居る事、個人のコードネームではなく本名すら知らないことを激しい言葉で指摘されてしまう。
罵声ではあるものの、正論である言葉の数々に、イレーナは涙を流すしかなかった。
本質が表面化
この作品の本質、「被差別人種を戦線に送り込む」という命題に直球でぶつかっていったのが、今回でした。あまりに直球を投げ過ぎて、これにドン引きしてしまった人も多いのではと思います。
私は深刻な物語な方が好きだと言った手前、最後までイレーナを見届けようとは思いますが、「すっきり感」を求めがちな視聴者にウケるのか?と変な不安を抱いてしまいました。(この手の説教エンドみたいなのは嫌われますし(『トラスティベル』など))
ただ、先も述べたようにこの作品の本質は「被差別人種に戦闘を強いている」というところにあります。イレーナとスピアヘッド隊の歓談も、スピアヘッド隊からしてみると本当にタダの「おつきあい」程度で、イレーナが思っていたほどの親交の深まりは、ありませんでした。
イレーナ視点で見ると、自分の身の回りは軍本部ですら、腐敗と堕落を絵にかいたような状況であり、『86』たちに少しでも向き合おうとするだけでも立派なもので、それだけで称賛こそされずとも、罵声を浴びせられるようなものではありません。
ただ、スピアヘッド隊との会話では、当初は自分が罵倒されることも覚悟で臨んでいたとは思います。それでも、一週間と会話を続け、決して感触が悪くはない事から、一安心していたとも思います。
それに、イレーナ自身は自分の真摯な態度を理解してもらって居れば『86』の人々であろうと友好的に接してくれるだろうと思っていました。ところが、実際に向けられた言葉は、イレーナの態度を偽善と言い放つ過酷な正論でした。
スピアヘッド隊からすると声しか聴いたことのない、しかも、こちらを差別してくる非人道的な奴と言う風に見ているわけですから、イレーナのことを快く思わないのもしかたないです。
この私もスピアヘッド隊のメンバーがそれなりに数居ることから、個人識別を出来ておらず、コードネームでなんとなく識別をしているイレーナよりもっと性質の悪い立場に居ます。
イレーナにとって戦争はディスプレイの向こう側のできごとで、『86』にとっては今目先の出来事という精神的プレッシャーの違いもあり、「現実としての重み」が違うことは明らかでしょう。
その「現実としての重み」を実感する機会はイレーナには皆無でした。そして、その重みの実感に対しては『86』の言い分に理があると思います。
人間は本当に自分の身に何かが起こらないと、そのことを真に実体験として受け止めることはできないですから。
ここをどう乗り越えるのか
メタ的なことを言えば、シナリオの展開として転落し続けるということは無いと思うので、イレーナはどこかでスピアヘッド隊からの信用を得て、指揮官<ハンドラー>を行っていくことになるのでしょう。
徹底して打ちのめされたイレーナがどう立ち直っていくのか、死神こと『アンダーテイカー』のハンドラー壊しの謎、今回喋らなかった隊員たちの思いなど、まだまだ明かされていないことはたくさんあります。
これらの謎を全て放り投げ、イレーナがそのまま戦線離脱してしまうということは無いでしょうし、仮に一時的に戦線離脱するとしても、何らかの形で戻ってくることにはなると思います。
ただ、戻るためのきっかけ的存在が軍本部にない事は今までの経過を見れば明らかなので、自力での復帰か、このハンドラーの任を続けるしかない以上、ハンドラー在留が展開として妥当なものと考えられます。
ただ、これらもすべて「主人公だし最後はハッピーエンドするでしょ」と言うメタ的な先入観に基づく推測なので、ここからさらに転落していく可能性もあります。
特に、もう一人の主人公ともいえるアンダーテイカー=シンの思考や人間性については語られていない部分が多く、彼についての情報はせいぜいが死んだ仲間の機体のエンブレムを集めていることと200日で任期が切れるということぐらいです。
なので、彼がいつまで沈黙を貫くのか、シンがシンとして自らの意見を発信し、周りに何らかの影響を与えていくことになるのか、と言ったところが今後の焦点になるのかなとも思っています。
終わりに
直球で「被差別人種に戦いを強いている」と言う状況を突きつけ、イレーナに徹底して現実を突きつけることとなった第3話『死にたくない』。
死の直前の戦場での様子は今話では語られず、視聴者はイレーナと同様、死をディスプレイの向こう側の出来事として受け取りました。
ある意味で、視聴者に「戦場にいないお前たちも『86』を差別しているようなもの」と突きつけるような形となった今回。
次回はここからどうなってしまうのか。やや気が重いところもありますが、期待して見ていこうと思います。